当たり前だけど、当たり前じゃない。
こんにちは。
clichéの木下です。
以前書いた、
というのがありました。
今まで何の気無しに手に取っていたモールスキンは、直訳するとモグラの皮膚。
確かに。意味は簡単に訳せるとはいえ、そういえば気にしたことがなかった。
その訳、名前の由来通りに考えていくと、こうなる。
といった考えのもと、洋服を再定義を施したモールスキンのお話でした。
気になる方は上記ブログのURLからご覧下さい。
何か似たようなことって結構あるな、と思い考えていましたが、
前職から僕が尊敬する先輩にも同じことを言われていたなと思い出しました。
そう言われてからというもの、街の標識やペットボトル、缶の構造などについて、
ちょっと頭を抱え込みながらも、調べたりしてAHA体験をしています。
この洋服を作っている松島さんも同じように、それを日常生活から洋服作りにも置き換え、繰り返しているのだ。
何となく分かりますか?
いつも目にしている文字一つとってもたまに、
こんな字だっけ...ってなるみたいに。
当たり前のことも、当たり前じゃない。
それは本当に確かなのかと、考える。
そんなお話なんです。
今回はコーデュロイ。これもまた面白い発想です。
まず、コーデュロイという生地についてですが、
畝が特徴的な凸凹とした生地のことを指し、組織としてはパイルの織物。
身近なもので例えると、タオルと同じ織り組織。意外です。
タオルはループのパイルになりますが、コーデュロイはカットパイル。
いわゆる毛羽。イメージ的には、別物ですがベルベットを想像すると良いでしょう。
出来上がるまでの工程としては、パイルの輪を横糸で作った畝のある織布をカッチング、
その後、糊抜きや漬け込み、揉み込みを行うことで、パイルがほぐれて、ふっくらとした畝になっていきます。
生地の乾燥を終えると、大きな機械でパイルの毛焼きを行い、染めに入ってから完成。
youtubeで動画を見ていましたが、壮大なスケールで圧巻でした。
興味のある方は「コーデュロイ 製造工程」で調べたら出てきますので是非。
そうして出来上がった畝のある表情豊かなコーデュロイ。
柔らかく、秋冬の定番として今は親しまれています。
さて、コーデュロイについてわかったところで、話を戻します。
コーデュロイは光沢、表情が豊かです。
見る角度によって色の濃さが変わるのですが、上から見ると濃く、
下から見ると光沢が強く、白っぽくなります。
これが"逆毛"と言われる、一般的なコーデュロイ。
穿いたことがある方ならわかると思いますが、畝が潰れるのがデメリット。
綺麗なものでも、穿いていくと畝が潰れて雰囲気が変わる。
いつもなら味と捉えますが、今回はスーツ。
その味が出た状態は、ちょっと路線が変わってしまいます。
1枚目の写真の左が、私物のコーデュロイ(逆毛)。
右が製品、新品の状態。どちらも同じ生地です。
味が出る、畝が潰れた状態というのは、その部分が当たって白っぽくなるということで、過度ではありますが2枚目がその状態になります。
下から見ると白っぽくなる、写真左側の"逆毛"。
では逆にすれば通常の状態で白っぽく見えるので、
畝が潰れてもボヤけて目立ちにくいのではないか。
そこで、今回のこのコーデュロイは、"逆毛"ではなく対照的となる"並毛"。
生地を逆さに使っています。
すると、白さを帯びたキラっとした光沢が生まれ、非常に品の良い面構えに。
コーデュロイへのアンチテーゼ。
新たな発想から生まれた洋服です。
cantate
"Fine Corduroy Suit"
¥363,000 (TAX IN)
前回ご紹介したスーツに同じく、ダブルでツータックのトラウザー。
スーツ屋さんで仕立てた、オーダーメイドさながら。
ドメブラという枠には収まらないクオリティに仕上がっています。
ドメブラで本物のスーツという展開がそもそもレア枠なので、
高っ!となるのもおかしくはない。
けれども、それはドメブラとして見ているからであって、
本格的かつ生地に拘った"スーツ"だからこそ、これはこれで普通なんです。
日光の下に出ると、この光沢、陰影です。
ピークドラペルでダブル、パッチポケットが2つ。
半年して老けたのか、少し以前よりスーツが似合うような気がしています。
今挑戦したいスーツ。手持ちのスーツのお直しも完了しているので、タイミングで着ていきたい。
ジャケットは前回のシーズンから単体でも着られるよう、少しサイズ感が大きくなっています。
セットでの販売にはなりますが、ドレスカジュアルとしての使い道だけではなく、その汎用性にも注目してほしい。
サイドベンツ、袖裏にはシルクの生糸を使用した上質な生地を。
何処をとっても抜かりのない、満足度の高い仕上がりなのは言わずもがな。
肌を包み込む感覚が心地よく、体に沿う、吸い付くかのような安心感を感じていただけます。
形が綺麗、と一言で済ませてしまいそうにもなりますが、
22SSの時にご紹介した時の興奮をまだ覚えています。
改めて感じる作り込みの良さと、その技術。
パンツはツータック、サイドアジャスター、
センタークリースを施した美しいシルエット。
ヒップから下にかけて膨らみ、膝〜ふくらはぎはインカーブからアウトカーブ、インカーブの連続。
着用サイズは異なりますが、どちらにせよもたつきはなく、
崩れることのないフォルムが、このスーツ屋さんで作る理由と言えるでしょう。
キーとなる「くせとり」という作業があります。
職人の方が1本につき1,2時間かけて行う作業で、完成後のカーブを描くようにアイロンをかけ、そして霧吹き、またアイロン。
すると、どんどん生地が曲がっていきます。
これは伸ばしているのではなく、全体の体積や寸法に変化はない。
イメージとしては、形状記憶のフォルム作りと言えるでしょうか。
そうすることで、シルエットが美しく、足への吸い付きが良いパンツが出来上がる。
足への吸い付きが良くなるので、足を上げても裾が上がらない。
ジャケットも同様に、始め、袖・足を通した時に感じた安心感の正体です。
かなり細かい部分で、一目見ただけではわからない。
ぱっと見で綺麗だとか、かっこいいだとかを強く感じてしまうのは、それらの積み重ねで構築されている。
着用した時に皺が減るように、癖がとられる。
言葉として心地よくないが、業界用語で” 癖を殺す”。
それをくせとりと言う。
一目見てわかる。
これは"良いスーツ"です。
CREDIT
cantate "Turtle Neck L/S Shirt" ¥25,300 (TAX IN)
着用サイズ:46 (175cm)
高級な家具の表面のように美しい光沢と、木材の深みのある色味。
CREDIT
cantate "The Shirt" ¥48,400 (TAX IN)
着用サイズ:44
キラキラと輝くゴールドのようなベージュ。
味が出ても目立ち辛いとはいえ、ずっと着ていった先には、
ウェス・アンダーソンのように袖や膝が少し白く、雰囲気が増していくことでしょう。
後は、経年変化を気にするだけ、といった手入れの容易さ。
こういった、手に渡った後のことを優先した考え方も好きになってしまう点です。
もう1つの良いところである、洋服を再定義するということ。
歴史的なものであっても、僕らが既に知っていて、市民権を得ているメジャーなものにおいても、
何故?どうして?を繰り返していく。
まずは知らないと始まらないし、公に出ている情報だけでは務まらない部分も、多く存在する世の中だ。
どうして?なんてもう、そんなの面倒で気にしたくもないが、
それをやってのけるのがcantate、そして松島さんです。
その洋服を通して僕らはまた、知識を得て、より興味を持つようになっていく。
このブランドしか着ない、これしか勝たん!決してそういう意味ではないが、
洋服だけではなく、日常においても、本質的な部分で学ぶことが多い。
物事には、何でも理由がある。
今一度考え直すということは、勿論簡単ではない。
でもそれをやめてしまっては、先の未来はないかもしれない。
そんな、アンチテーゼから入るのも悪くはない。
当たり前だけど、当たり前じゃない。
ただ、そのアンチテーゼ、反対の意見を言うのも、
そうして突き詰めた人にしか言う権利はない。
cliché 木下