魔のシングルライダース
こんにちは。
clichéの木下です。
レザージャケット。
バイヤーとして今まで買い付けに行く中で、
レザーの洋服があってもオーダーはしてこなかった。
かっこいいなーって見るだけ。
高いし、着ない。まだ早い。
てか、レザーなんて似合わないでしょ。
俺に売れるか、、?
そんな率直な感想でした。
すみません。逃げてました。
仕事として捉えるに、実際に着ているものでないと、
思い切ってオーダーする場合に踏ん切りがつかない。
先見の目だとかアンテナだとか、センスも勿論必要な職業ですが、
僕はバイイングしながら店頭に立つのが好きなので、商品について無駄に話したい性分。
感覚だけでオーダーしてしまうと、バイヤーとしての説得力なんてものは、そこにはありません。
売れそうとか、良いよねーだけで片付けたくないわけです。
売れ残ったら責任も大きいし、なんだかやりきれない感情にも駆られる。
それはその洋服が残り続ける限り、しこりとして残り続けます。
高いものになると、それはもう尚更にクリティカルヒット、、。
小難しい戯言ですが、なんていうか、、リアルじゃないんです。
でも、まさか過去の話になっちゃうなんて、、な。
去年の22AW、試着を繰り返したcantateのレザージャケット。
気付いたらゲットしていました。
今まで持ってなかったというと嘘になるけれど、学生時代古着で買った別になんてことのないレザーだったり、
手放したことを後悔している、ISSEY MIYAKEのレザージャケットだったり。
崩したものは持っていたので、全然嫌いとかではないし、むしろ好き。
ルイスやショット、ミリタリーのG-1やA-2。
タイトフィットでクラシカルなレザーやライダースって着てたら男らしく、バチバチにイケてる。
でも僕はバイカーでもアーミーでもないから、"漢汁200%の人"や、
”髭面ダンディズムな人”に与えられた、特権なんだろうと。
そう僻んでいた自分も恥ずかしいほどに、手にしたそのレザージャケットはカッコよく、
似合っているかはさて置き、見れば見るほど欲しく、着たくなってきていた。
友達が買ってくれた側で見て、一緒に着てみたが友人ほど似合っていない。
でも似合う男になりたいと。
偏見よりイマジネーションが勝った瞬間でした。
レザーは自分の身体に馴染み、自分だけの1着になっていく。
ブーツや革靴は、その人しか着ることを許されないような馴染み方をしていく。
着たいと願う者には応えてくれる存在だ。
まだタイミングを見てたくさんは着れていないけれど、
それを肌に感じ、今年の春を心待ちにしていました。
そうして、今回は2色でご用意。
以前の僕とは違い、自信を持ってお勧めする準備が万端です。
cantate
“Wild Reverse Single Leather Jacket”
¥660,000 (TAX IN)
羊6頭のように、パンチの効いた以前のライダースと同様。
またもただならぬ仕上がりは、カシミヤスウェードを使用した、
ブリティッシュタイプのシングルレザージャケット。
カシミヤスウェードは、原皮のグレードが素晴らしいものを毛足が短く、均一に加工した、非常にキメの細かいもの。
日光の下ではキラキラと輝き、滑らかでとても気持ちいい肌触りです。
高級紳士靴 "John Lobb"でも定番的に使用されているスウェードの王様的立ち位置だと思ってください。
待てよ。
それはそうと、スウェードはどこ?
スウェードが見当たらない。
表面のレザーはところどころ小傷のようなものが見られ、背面のヨークにはトラと言われる横シワもある。
なるほど今回は、中々にワイルドな見た目の牛革。
んー、スウェードはどこだw
裏?そんな馬鹿なことはないと思いたい。
でも高価なカシミヤに穴を開けたり、羊6頭を使ったりするブランドだ。
あり得る。
おおよそ察しがついた方もいるかと思いますが、
このライダースは前述のようにカシミヤスウェードをまさかの裏使い。
言葉は汚いですが、正気の沙汰。
疑問符だらけのレザージャケットです。
当たり前ですが、スウェード面が売りのカシミヤスウェード。
そんな普段は陽の目を浴びない、B面として扱われるレザー部分でライダースを作ったら格好良いのではないか、という思考で作られた洋服です。
今回は”あえて”裏表を逆に使用し、表にスムースレザー、裏にスウェード面。
吟面は、キズや横に皺が入っているような"トラ"が特徴的で、シボ感もあり、力強くかっこいい表情をしています。
今のレザーではまず見ることのない、ヴィンテージらしい見た目です。
初め聞いた時はマジかよ、、って思いましたが、出来上がりは想像以上。
身頃の裏地には、以前から使用しているバックサテンギャバ、袖裏はコットンシルクを使用して、袖通しも容易に。(この裏地の使い方も狂ってると思う)
アンチテーゼ的な解釈で、独特の雰囲気を放つ、唯一無二なレザージャケット。
CLIXファスナー、ボールチェーンやサイドのバックル等、随所のディテールは以前のまま継続しています。
迫力はありますが、レザーのマットな質感や、シボ感が逆に品良く、
モダンに落とし込むのがcantate流。
漢汁が無くとも、髭面ダンディズムじゃなくても着られる仕上がりが嬉しい。
是非手に取っていただきたい1着です。
CREDIT
cantate "T Shirt" ¥20,900 (TAX IN)
cantate "Denim Flare Trousers" ¥40,700 (TAX IN)
感化されたのか、23AWはレザーをオーダーしたセフレロス杉村。
やたら似合っているので、オーダーして正解ですね。
付き合いが長いですが、普段からレザーに興味を持つタイプではないはず。
でも、キラキラとした目を見ていると、
cantateのレザーにはとんでもない魅力があるということ。
去年の僕と、どうやら同じ気持ちです。
杉村でサイズは44、ジャストフィッティング。
CREDIT
cantate "Moc Neck L/S Shirt" ¥27,500 (TAX IN)
cantate "Denim Tapered Trousers" ¥40,700 (TAX IN)
デニム、チノパン、スラックス。
オーセンティックなアイテムに合わせて、際立たせてスタイリング組むのがベター。
画力は申し分ないので、他のアイテムで我を出す必要はなさそうです。
僕でサイズは46を着用、以前買ったレザーは44でビタッと着ています。
選ぶ際、ピチピチすぎるのが嫌だな、なんて思っていましたが、
それではレザーの醍醐味を味わえないと思い、サイズダウン。
今ではそうしてよかったと、満足度マックス。
というかもはやそうしないと意味がない。
着用し始めから柔らかい質感をしていますが、まだまだ本領発揮はここから。
育て方、じゃないけれど、松島さん私物のレザージャケットがすこぶるかっこよくて。
リアルなやり方ではないにしろ、みなさんや僕らにレザーの変化する魅力を知って欲しいと、自宅でシャワーでビシャビシャにして着ているそう。
信じられませんが、そもそもバイカーの身になってみると、雨風の中ライダースを着てバイクに乗る。
水を与えてあげるのも、リアルな変化の一つで、
逆に守って着用すると、そのリアリティは得られないんだと語る。
主に袖の肘部分が伸び、着ている人の腕に沿うように形取られ、シワが寄ることで袖が上がる。
衿のくせ付や、ポケットのファスナーなどリアルに使うからこそ、その人らしさが表れる。
革靴やブーツ然り、モノになっていく過程が楽しいし、イカす。
100%でスタートして、数年後には2000%くらいのビジュアルになるはずです。
こんな話ばかり聞いていると、そりゃあ欲しくなるわ、、。
冒頭の話に戻ると、
お客さまからしたら、どうでも良い話かもしれませんが、
残ったら買う、それくらいの意志は持っているつもりでいるし、
そんな気持ちで商品を紹介しています。
でかい口をたたきつつも、財布が悲鳴を上げているわけですが、
前回から言うとライダース然り、今回のターコイズカラーのスイムショーツといい、
高価なのかデザインが強いのか、いわゆる"やばい"ものとカテゴライズされるものは、
冒頭のような逃げが炸裂して、店頭に出ない、ブログに書かれない、
はたまた、おおっぴらに世に出ない、ってなってしまうと勿体無いと思うのです。
良いと思ったものに対して、正直に向き合ったオーダーをその時の気持ちでご紹介することが僕の仕事。
全部買う余裕があれば全部欲しい。
着る、買う余地を残したバイイングであり、好きなものしかない。
それに共感してくれる方がいれば嬉しい、に尽きます。
表面のツラは見たことのない、迫力のある仕上がり。
でも肝心のカシミヤスウェード、世の中で一級品と称されるものが見えないなんて。
しかも背中部分のみで靴一足作れるというじゃないか。
裏地で見えない、見たい。
もどかしくもある、でもロマンもある。
なんだよこれ。
グラビアの袋とじみたいじゃん。
デザイナー松島紳からの、魔のシングルライダースという名の果たし状。
是非受け取って、乗りこなしてほしい。
じゃじゃ馬か、サラブレッドになるかはあなたの着方次第です。
cliché 木下