「スウェットは、かつて“高級品”だった。」

cantáteが教えてくれたベルトの答え。
スタイリングでわかる、“WOOL LINEN UTILITY JACKET”の正体。
「シャツなんて、どれも同じ?」
“こうあってほしい”を叶えたUTILITY JACKET
「スウェットは、かつて“高級品”だった。」
こんばんは。cantáte 松島です。
ぼくの親の世代──70年代、80年代。
当時のスウェットは、いまの感覚からすると驚くほど“高級品”でした。
なぜか?答えはひとつ、“吊り編み”です。
吊り編み機は、ゆっくりと糸を積み上げるように編む昔ながらの機械。
1日にわずか数着分しか編めない非効率さのかわりに、糸に負担をかけずに仕上げられる。
だから、生地はふわっと空気を含み、厚みと弾力を持ちながらも柔らかい。
そして、何年着ても型崩れしない頑丈さがある。
でもその効率は、シンカー編みの30分の1。
スウェットとデニムが飛ぶように売れていた時代、需要に追いつくはずもありません。
結果、デニムはシャトル織機からレピア織機へ。
スウェットは吊り編みからシンカー編みに。
「品質より量」が時代の正解だったのです。
けれど、吊り編みとシンカーは、ぱっと見が似ているだけで実はまったく違う。
シンカーは裏糸を少し引っ張るだけで表地までツレてしまう。
それに対して吊り編みは、表・中・裏の三層が独立した構造で、互いに支え合いながら成り立っている。
まるで組体操の“扇”のよう。
ひとりが崩れても全体で支えるように、バランスの取れた安定感を持っている。
だからこそ、着たときに肩から裾までがきれいに落ち、安定感あるシルエットを描いてくれるのです。
<cantáte>
COLOR : NAVY , L/GRAY , MILK
SIZE: 44,46,48
¥57,200- TAX IN
COLOR : NAVY , L/GRAY , MILK
SIZE: 44,46,48
¥60,500- TAX IN
Fluffyに込めたもの
cantáteの Fluffyシリーズは、その“本物の吊り編み”で作ったスウェットです。
裏糸には、赤ちゃんの肌着にも使われる“無撚糸”を採用しました。
糸の撚りをかけないことで、肌に触れるとふわっと優しく、むにっと沈み込むような感触を生む。
いちど袖を通せば「スウェットでこんなに?」と驚くはずです。
しかも、この生地はパンツなら1日にわずか3本分しか編めない。
気の遠くなるような非効率さですが、だからこそ吊り編みの価値がある。
柔らかいのにコシがあり、洗い込むほど身体に馴染む。
「スウェット=消耗品」という固定観念を、根本から覆してくれる素材です。
ディテールの積み重ね
もちろん、生地だけではありません。
“部屋着”ではなく“外に着ていきたい”スウェットにするために、細部まで工夫を凝らしています。
・フラットシーマ
スウェットの縫い目を見てください。
ゴツゴツと盛り上がった縫い目と、驚くほど平らな縫い目。どうして違いが出るのでしょうか。
秘密は生地を突き合わせて縫う特殊なミシンにあります。縫い代が重ならないため、肌に当たってもストレスがなく、ふわりとした吊り編みの伸縮にも追従する。
だからこそ「縫い目が生地を殺さない」──この言葉がしっくりきます。
ただ着心地が良いだけでなく、生地の質感や柔らかさをそのまま活かす。今や希少な縫製仕様なのは、その手間と技術ゆえです。
・二本針ステッチ
裾や袖口を走る、二本の平行なライン。
なぜ見慣れたはずなのに、どこかクラシックで安心感があるのでしょうか。
表には二本のステッチ、裏にはジグザグに走るルーパー糸。この構造が丈夫さと伸縮性を両立させています。
激しく動いても縫い目が裂けにくく、同時に柔らかく伸びてくれる。
だからヴィンテージのスウェットを思い出させる“らしさ”がここに宿る。
ただの縫製仕様ではなく、時代を超えて受け継がれた意匠なのです。
・リバースウィーブ構造
生地を横使いする。たったそれだけの工夫が、どうしてここまでスウェットの性格を変える。
最大の狙いは縦方向の縮みに強くなること。洗濯を繰り返しても着丈が詰まらず、シルエットを保つ。
けれどそれだけではありません。横方向にハリが出ることで、身体のラインに自然な立体感が生まれます。
特にパンツでは顕著で、腰から腿にかけてゆるやかな膨らみを描く。
ただの“まっすぐなスウェットパンツ”とは異なる豊かな表情を見せてくれるのです。
・バインダーネック
スウェットがいちばん先にダメになる場所はどこか。答えは首まわりです。
毎日の着脱で引っ張られ、伸び、波打ち、やがてだらしなく崩れていく。
そこで考え出されたのがバインダーネック。リブを縫い付けるだけでなく、テープ状の生地でぐるりと巻き込み、二重に補強する。
この仕様があるだけで、首元の耐久性は格段に上がります。
何年経ってもピンと立つ首まわり──そこに宿る清潔感こそ、スウェットを「制服」のように着続けられる理由なのです。
・V字ガゼット
ガゼットって「汗留め」と言われるけれど、本当にそうだろうか。
胸の中心、いわゆる谷間に汗は落ちてくる。これは事実。
ただ、その前に生地が吸いきれないほど汗をかく状態である必要がある。
つまり、汗だくになる前の段階を想定したディテールだと考える。
ぼくは、むしろ縮んでも着られるようにネックラインへ“逃げ”をつくる工夫じゃないかと思っています。
首まわりは負荷が集中する場所。バインダーネックで補強し、さらにV字ガゼットを添える。
二重三重の工夫で、首元の安心感が生まれるのです。
その周囲を縫うのは、フラットシーマや二本針ステッチ。
縫い目が肌に当たってもごろつかず、生地の伸縮にもきちんとついてくる。
「縫い目が生地を殺さない」──そんな言葉がしっくりくる仕様です。
さらに身頃全体ではリバースウィーブ構造が効いていて、縦縮みに強いだけでなく、横方向にハリが出る。
パンツなら腰から腿にかけて自然な膨らみが生まれ、トップスならガゼットや首まわりのディテールを際立たせてくれる。
つまり、V字ガゼットは単体で成り立つパーツではなく、
他の仕様と組み合わさって初めて「スウェットらしい安定感」をつくっているんです。
スタイリングの中で生きる
Fluffy Crew Neck Pullover & Fluffy Wide Pants (183cm Size: 48)
生地とディテールにここまで手をかけると、シルエットが自然と“街に映える”ものになる。
クルーネックはラグランスリーブで肩の落ち方がきれい。
そして今回、ぜひ注目してほしいのはパンツです。
一般的なスウェットパンツは、部屋着っぽさやだらしなさと隣り合わせ。
けれど、このモデルは違います。ワイドストレートの設計で、腰から腿にかけて自然な膨らみを描きながら、裾にかけてストンと落ちる。
そのラインが脚をすっきりと長く見せ、ルーズなのにだらしなくならない。
・裾のステッチ
スウェットパンツと聞くと、ゴムで絞られた裾やドローコードを思い浮かべるはずです。
でも、このパンツにはありません。裾はあえてタタキ仕様。
ゴムで縛らないことで、足元にストンと落ちる直線のラインが生まれる。
革靴にもスニーカーにも馴染み、スポーツウェアではなく“パンツ”として街に映えるシルエットに仕上がります。
リラックス感を保ちながら、ルーズさや子供っぽさを徹底的に排した仕様です。
・ポケット袋布
見えない部分こそ大事にしたい。
ポケットの袋布には、スウェット地ではなく布帛製品と同じスレキを採用しています。
なぜか。手を入れるたびに擦れていく部分だからです。
スウェット地のままだとすぐに破れたり、膨らんで形が崩れてしまう。
スレキなら耐久性が高く、毎日使ってもへたりにくい。
パンツとしての信頼性を、見えないところで支える仕様です。
・ウエストリブ
ウエストにはリブを付けています。
でも、一般的なフライス素材ではなく、身頃と同じ生地で仕立てた共地リブ。
バスケットパンツのように腰まわりを包み込む仕様で、身体に自然と馴染む。
ドローコードや強い締め付けに頼らず、スウェット本来の柔らかさと伸縮で支えるから、穿いたときの雰囲気が崩れない。
ウエストまわりの見え方まで考え抜いたからこそ、トップスをタックインしてもサマになる。
リバースウィーブの構造を採用しているので、横方向にハリが出てシルエットが立体的に浮かび上がる。
「スウェットだから仕方ない」と思っていた野暮ったさを根本から覆してくれるはずです。
合わせる靴も選びません。
革靴を履けばきれいめに映え、スニーカーなら軽やかに馴染む。
スウェットパンツなのに街着としてきちんと成立するのは、この“落ち感”と“バランス”があるから。
リラックス感と上品さ、その両方を手に入れた一本。
気づけば毎日のスタイリングに組み込みたくなるパンツです。
そして、色。
特に“トップグレー”は、高級品ばかり扱うウール業界に憧れた綿紡績屋さんが創り出した色です。
ウールの高級品に多いトップグレーを、コットンでやってみたい──そんな思いから生まれた色合い。
今では逆に「トップグレー=スウェット」と感じてもらえるのかもしれません。
そして、共感
正直に言うと、ぼくはスウェットが好きじゃありませんでした。
部屋着っぽいし、だらしなく見える。
でも、Fluffyだけは違う。
“柔らかいのに強い”、“日常着なのに品がある”。
そのバランスに、気づけば自分でも驚くほど手が伸びる。
「スウェットなんて何でもいい」と思っていた人ほど、この差に気づくはずです。
日常の定番でありながら、ずっと手放せなくなる一枚。
それが、Fluffyです。
3年ほど履いて、雑に着まくった私物を店頭に置いておきます。
素晴らしい風合いになっているので、触れてみてください。
cantáte 松島 紳