「気にしてるかどうか」が、すべて──cantáteのジャケットの話

無骨で、美しい。cantateが仕立てるワークウェア
「B品のふりをしたA級」
パンツが3本、だけど1型 ─ CLASSの「境界線」を穿く。
「悩む時間ごと、楽しい」— 僕が選ぶ、今年のEYEVANたち。
こんばんは。cantáteの松島です。
ジャケットって、スラックス以上に「なんとなく雰囲気」で選ばれることが多いかもしれません。
でも実は、“雰囲気”は偶然じゃなく、細部の積み重ねでしか生まれません。
今日は、cantáteのジャケットがなぜ自然で、なぜ美しく見えるのか──
その理由を、いくつか紹介させてください。
■ 襟が決まる理由──アゴとステッチ
昔は、親から子へ受け継ぐことを想定して、襟まで大きく直すことが前提でした。
今では“イミテーション”なアゴが多いけど、cantáteではちゃんと機能するアゴを残しています。
また、襟腰にはカラークロス+ステッチを入れることで、返りが綺麗に決まる設計に。
見た目には出ないけど、着たときの“落ち着き”に差が出ます。
■ バルカポケットは「くせ取り」済み
胸ポケットに眼鏡を入れても、たぶん“入ってないように見える”はず。
それはポケット口に丁寧なくせ取りをしているからです。
本来、スーツで手作業で作られるポケットはこのバルカだけ。
でもcantáteでは、全てのポケット手で作っています。
理由?その方が格好が良いから。
■ 接着芯を使わずに作った、柔らかなフラップ
フラップも、マニプレダーツも、すべて柔らかく、身体のラインに沿うように設計しています。
化粧で塗り固めない、“素肌のままの格好の良さ”が好きなんです。
■ 月腰なし、一枚襟
cantáteのジャケットの襟は、月腰なしの一枚仕立て。
長方形の生地をアイロンワークだけで襟に仕立てる、昔ながらのつくりです。
でも、それだと襟の返り線がズレやすい。
だから、星止めを入れて“返り分”を設計しているんです。地味だけど重要な設計思想です。
■ 裏肩線は“手縫い”です
手縫いの一番の利点って、テンションが柔らかいこと。
しかも縫い代が薄く仕上がる。
cantáteの裏肩線は、天然のアクションプリーツみたいなもの。
着たときに肩甲骨まわりの可動域を自然にサポートしてくれます。
■ AH(アームホール)・袖底の処理
袖底は縫い代を少しカットして、脇に当たらないようにしています。
これがあるだけで、動いたときのストレスが激減します。
そして袖底の裏地のたるみを星止めでまとめてます。
余分なたるみをまとめることで、腕通りがスムーズになるんです。
■ 糸ループ
脇汗パッドがパタつかないように、小さなループで留めています。
これも地味だけど、無いとちょっと気になる。
“気にしてる人”が作る服は、こういうところまでちゃんとしてる。
■ 三角フラップ
クラシックなディテールのひとつだけど、
これをちゃんと作れてるブランド、実は少ないんです。
cantáteの三角フラップは、角の処理もきちんと丁寧にやってます。
見ればわかる、触ればもっとわかる。
■ 割両玉ポケット(角度違い)
実は、ポケットひとつひとつで角度を変えてつけています。
その方が、手を入れたときに自然で、物の出し入れもしやすいから。
“使いやすさ”って、パッと見じゃわからない。
でも、毎日使えばすぐわかる。
■ 裏のタック──物を入れても響かないために
内ポケットに財布や名刺入れを入れると、
その重さでジャケットが下に引っ張られて、表地にシワが寄る。
それを防ぐために、裏地にタックを入れています。
これが効いてると、ぱっと見の“シュッと感”が全然違う。
■ 脇線の“手まつり”で生まれる伸縮性
吊り革を持つとき、車を運転するとき、
脇線に少しの“余白”があるだけで、めちゃくちゃ動きやすくなるんです。
手まつりだからこそ生まれる、この可動性。
見えないけど、感じるはず。
■ サイドベンツの跳ね防止テープ
スカートが跳ねてパンツ見えたら注意するでしょ?
ジャケットのベンツだって、跳ねてたらダサい。
だから、cantáteではサイドベンツに跳ね防止のテープを仕込んでいます。
きれいなシルエットは、仕込みで決まる。
■ 袖裏の縫い代、たっぷり
裏地って、見えないけど、汗かいたとき・腕を曲げたときに突っ張ると地味にストレス。
cantáteでは袖裏にたっぷり縫い代をとって、動きを妨げないようにしています。
用尺はかかるけど、着心地が全然違います。
■ サイドベンツ裏の“謎ステッチ”と“テープ”
サイドベンツをめくってみてください。
表には響かない、でもめくると現れる謎ステッチとテープがあります。
これは、接着芯を使わないために編み出した古い仕様。
接着してないから、剥がれることもない。
クリーニングでも安心です。
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■ 裏の背抜きにも“糸ループ”
小さなループがあることで、裏地が無理に引っ張られることなく、
全体が自然に馴染んでくれます。
こういうのを“服のしつけ”って言うのかもしれませんね。
最後に
cantáteのジャケットは、一見とてもシンプルです。
でも、そのシンプルさの裏側に、気にしている人の手仕事が詰まっている。
「デザイン」として目立たせるのではなく、
「設計」として違和感なく身体に沿う。
それが、cantáteのジャケットです。
次にジャケットを試着するときは、
襟の落ち方、袖の吸いつき、ポケットの奥行き、ベンツの動き──
ぜひ、細部に目を向けてみてください。
“ちゃんと作っているかどうか”は、着ればすぐにわかると思いますが、
その理由を理解することがとても大事だと僕は思います。
次回のブログでは、スラックスについてお伝えしますね。
cantáte 松島 紳